大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

前橋地方裁判所 平成5年(わ)42号 判決

本店所在地

群馬県富岡市宇田二五〇番地の四

株式会社

湯浅製作所

(右代表者代表取締役 湯浅泰弘)

本籍

群馬県富岡市七日市二二二番地

住居

同市宇田二五〇番地の四

会社役員

湯浅泰弘

昭和一三年一二月二一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官信田昌男出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告法人株式会社湯浅製作所を罰金六〇〇〇万円に、被告人湯浅泰弘を懲役二年にそれぞれ処する。

被告人湯浅泰弘に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告法人株式会社湯浅製作所は、肩書地に本店を置き、機械器具製造等を営業目的とする株式会社であり、被告人湯浅泰弘は被告法人の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人湯浅泰弘は、被告法人の業務に関し法人税を免れようと企て、架空仕入を計上して簿外資金を蓄積する等の方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和六三年二月一日から平成元年一月三一日までの事業年度における被告法人の実際所得金額が二億三九〇四万八四一八円であったのにかかわらず、同年三月三一日、群馬県富岡市富岡二七四一番地の一所在の所轄富岡税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四八二七万七七〇七円で、これに対する法人税額が一八六二万〇一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額九八七四万四〇〇〇円と右申告税額との差額八〇一二万三九〇〇円を免れ、

第二  平成元年二月一日から同二年一月三一日までの事業年度における被告法人の実際所得金額が二億三四三八万〇四三〇円であったのにかかわらず、同年四月二日、前記富岡税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七九〇二万六七六五円で、これに対する法人税額が三一六七万八九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告法人の右事業年度における正規の法人税額九六九二万七五〇〇円と右申告税額との差額六五二四万八六〇〇円を免れ、

第三  平成二年二月一日から同三年一月三一日までの事業年度における被告法人の実際所得金額が三億三二八五万八六六八円であったのにかかわらず、同年四月一日、前記富岡税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億三八三〇万三一四五円で、これに対する法人税額が五三四三万四六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告法人の右事業年度における正規の法人税額一億三一五一万六四〇〇円と右申告税額との差額七八〇八万一八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  中野昭(二通)、宮田親令、湯浅利江の検察官に対する各供述調書

一  宮田親令の大蔵事務官に対する各答申書

一  大蔵事務官作成の次の各調査書

1  水増材料仕入高調査書

2  材料仕入高調査書

3  簿外支払手数料調査書

4  スクラップ収入調査書

5  簿外債券償還益調査書

6  受取利息割引料調査書

7  減価償却費調査書

8  固定資産売却損調査書

9  雑収入調査書

10  事業税認定損調査書

11  簿外預金調査書

12  割引債券調査書

13  金地金調査書

14  代表者貸付金調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書

判示冒頭の事実について

一  登記官作成の登記簿謄本

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(自昭和六三年二月一日至平成元年一月三一日のもの)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(自平成元年二月一日至平成二年一月三一日のもの)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(自平成二年二月一日至平成三年一月三一日のもの)

(法令の適用)

被告法人の判示各所為は、各事業年度ごとに法人税法一五九条第一項、一六四条第一項に、被告人の判示各所為は、各事業年度ごとに法人税法一五九条第一項にそれぞれ該当するところ、被告法人については情状に艦み同法一五九条第二項を適用し、被告人については所定刑中懲役刑を選択することにし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告法人については同法四八条第二項により合算した金額の範囲内において罰金六〇〇〇万円に、被告人については同法四七条本文、一〇条により、犯情の重いと認める判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年にそれぞれ処し、被告人に対し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人及び被告法人が、その事業会社の所得を秘匿して、三事業年度の法人税につき虚偽の過少申告をし、合計二億二三四五万四三〇〇円の法人税をほ脱したというものであるが、被告人が犯行の動機として述べる、親会社からのコストダウンの要求を回避するための公表利益減圧の必要性、系列会社の傘下を離脱することに伴う売上の減少や売掛金債券の貸倒の危険に備えての裏金の必要性などは、多くの企業が大かれ少なかれ抱えている問題であり、かかる経営環境にありながらも誠実に納税している企業も多数存在することを考えると、いずれも斟酌すべき事情とは認めがたい。また、本件におけるほ脱税額は、三期合計で二億円以上に上り相当の高額であり、ほ脱税率は平成元年一月期が八一・一パーセント、同二年一月期が六七・三パーセント、同三年一月期が五九・三パーセントと比較的高率である。このような被告人及び被告法人の行為は、税負担の公平感を害し、納税者の納税意欲を阻害し、ひいては、国家の財政的基盤を危うくしかねないものであって、その刑事責任は重いといわなければならない。そこで、被告法人については、主文掲記の罰金に処することとするが、被告人については、本件犯行について反省する態度を示していること、被告人にはこれまで前科のないことなど被告人に有利な諸事情も存在するので、これらの諸事情を勘案して主文掲記の期間その刑の執行を猶予することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 沼里豊滋)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例